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2009.8.18号




資産を蘇らせるリノベーションという手法

リフォームとリノベーションの違い

住宅を「リフォーム」するというのは、古くなったものをただ作り直すことです。一方「リノベーション」とは、既存の部屋に間取りの変更など大規模な改修工事を行ったり、さらにそこにキッチンや浴室などの設備を取りつける際、最新の機能を備えたものを入れたりすることによって、部屋に新しい付加価値を創造すること、といわれています。大胆なリノベーションを行うことによって、建物は住む人のライフスタイルに合わせて、より機能的に暮らしやすく生まれ変わることができます。

「バス・トイレ別」の部屋に変身  
都内にあるAマンション。最寄り駅からも近く、ターミナル駅への利便性も良いので、若い方を中心に人気のマンションです。Aマンションにはさまざまな間取りのお部屋がありますが、中心は約30uの1DK。6.5帖のDKに6帖の和室、ご夫婦でお住まいになるにも丁度良い広さです。しかしながら、このお部屋はいわゆる3点ユニットというバス・トイレが一緒のタイプになっていました。3点ユニットバスはバスとトイレを1室にまとめることによって室内面積を有効にとることができ(※参照)、以前は人気がありました。 しかし、現在はライフスタイルやニーズが多様化(ある意味高級趣向化?)し、お部屋探しの基準としては敬遠されてしまいがちなのが実状です。
※3点ユニットバスはバス・トイレ部分に必要な面積が0.42坪(1014タイプの場合)。バス・トイレ別になるとトイレ部分の面積が加わるので0.75坪になってしまう。
したがって、Aマンションの3点ユニット式であるこのお部屋も住み手を限定することにもつながり、坪単価から算出する賃料よりもはるかに安い賃料設定を強いられることにもなってきました。また空室期間も徐々に長くなりました。そこで、
今回は思い切ってリノベーションすることになったのです。建物は築20年を超え、設備も古くなってきましたので、故障や不具合の報告も増えてきていましたし、今回工事を行うことによって、将来的にも床下の配管関係からの漏水の心配もなくなります。

まず、現場を確認しながら既存の設備を壊します。新築時の図面どおりの施工ではないところもあるからです。 ユニットバスとキッチンセットを撤去。なるべく天井を高くし、床を上げないように設備配置を考えます。
 
既存の梁、ダクトや給排水など専有部外と絡んだ部分は動かすことができません。さらに水回りを大きく動かすことは、隣室や階下への音の面で大きな影響を及ぼします。(たとえ躯体壁を隔てていても、トイレを流す音などは響いてしまうので、ほかの住戸の寝室や食事室の近くにすることはクレームの原因にもなりかねません)

自宅のリノベーションとは異なり、賃貸物件ですので、新しく設置する設備も利回りのことを考えると、コスト重視の選択となります。
いかに必要最小限の設備を効果的にセレクトするか・・・。確かに造作家具などを採用すればカッコ良い空間をつくることができます。しかしそこは賃貸物件。既存にあるもので使える部分はそれをうまく使い、配置の変更を少なくすることで工事コストを抑えることができます。 今回はDKと和室の間の壁を取り払って広めの1Kにしました。押入れの襖は撤去し、天井までのぴったりの寸法の大きな建具を設置しました。ただし中段はそのまま残し、お布団の収納も可能な大型クローゼットに。
  

建具のダークブラウンが映えるよう、床は敢えて明るい色調のものをチョイスしました。窓から見える緑も爽やかな印象です。 システムキッチンも流行のダークブラウン色を採用。 もちろん、床を直す前に床下を、天井を直す前にダクトなどの天井裏をと、目に見えない部分に手を入れ、給排水管などは新しくしました。(=意外とその部分にお金がかかります)

賃貸物件をリノベーションすることにより、部屋をこれからのライフスタイルにフィットさせ、入居者ターゲットを広げることができました。そこでの生活はひとそれぞれ十人十色です。貸主、借主双方にメリットを生み出す改革・・・・。そんな新たな価値の創造こそが、リノベーションなのです。


参考)  
一人暮らし≪設備の三種の神器≫
 住宅情報を提供するアットホーム社(本社:東京都大田区)が平成21年1月に発行した「一人暮らしの実状と部屋探しについて」調査結果報告書によると、
もし引っ越すとしたら欲しい設備のベスト3は 1位「エアコン」 2位「独立したバス・トイレ」 3位「広い収納」 でした。もっとも同じ調査での 今ある設備の1位「エアコン」が首都圏で96.6%ですから、「エアコン付きは当たり前」という感覚ともいえます。
 注目すべきは
もし引っ越すとしたら欲しい設備での2位「独立したバス・トイレ」という項目。一人暮らしの人はシャワーを浴びるだけのことが多く、浴槽や洗い場を必要とはしていないように思われていますが、育ってきた環境の違いというか、いまどきの若者ニーズの変化を感じさせるようなアンケート結果だと思いました。以前は「自室に専用風呂・専用トイレがあるだけで満足」だったのが、「専用風呂トイレは当たり前、いかに快適で広い家に住まうか」というところに視点が向いているようです。

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